どう考えるかを問いかけ、行動を起こすこと ~2022年度卒業式 式辞 6年生の姿から学んだこと~


毎年、和光小学校の6年生には小学校で積み上げてきた学び、体験が大きく花開くことを感じるのですが、今年ほどその想いを強くしたことはありません。それどころか、自分は何をすべきかを何度も考えさせられました。


1組のKさんが手紙を届けてくれたのは6月のことでした。「マイクロプラスチックストーリー」のアンバサダーになり、環境活動家の方の講演会に参加した、その方は世代も近い方なので学校にお呼びして講演をしてもらってはどうか、映画の上映もできないか、という内容でした。担任の先生もクラスや学年で映画を見ることができるのでは、という提案をしたようですが、Kさんは和光小学校のもっと多くの子どもたちに知ってもらいたい、という気持ちを持っていました。

「学校で考えます」という返事をすると、「小学校生活最後なのでやり残しがないよう、環境問題に力を入れています。自分で作った手書きのポスターを世田谷区の区長さんに届けに行き、羽根木公園の2カ所の掲示板に貼って頂けることになりました。」という返事が届きました。

その後、児童会での上映会ができるかなど方法を探り、その間もKさんと何度かお手紙のやり取りをしました。

同じクラスのMさんが児童会執行委員長になり、Mさんからもお手紙をもらいました。「学校をよりよくするために立候補したけれど、児童会の要求運動はスケールが小さいし、スピードも遅い、KとMとAでSDGs委員会を作った、この映画を上映したい」という内容でした。この時SDGs委員会に私も誘ってくれました。

さらにKさんから映画を上映したい理由として、自分自身がこの映画を見て変わることができたから、という手紙が届き、そこには「1人の100歩より100人の1歩」になるように、と力強く書いてありました。

ちょうどこの映画を親和会主催で2月に上映することがわかったので、上映にかかる費用や時間のことも考え、「休み時間に上映するので全校の子どもたちに呼びかけてみてはどうでしょう。」と相談しました。すると「私たちは全校生徒に観てもらいたいのでその提案には反対です。授業の時間を使ってみんなに観てもらいたい!」と、SDGs委員会から、抗議に近い内容の返事が来ました。

授業時間を使うこと、特に全校でというのは急には難しいことを理解してもらい、2月中旬、ロング昼休みを2回使って上映会を行いました。その時、全校のみなさんに呼びかけたポスターがこれです。はたしてどれぐらいの人が集まるかと思ったのですが、結果的には音楽室がいっぱいになるほど百人近くの人が参加し、一生懸命観てくれました。

私に届けてくれた手紙は10通近くになり、そのたびに学校で相談し、どうすればいいか考えてきました。地球環境のことは待ったなしの問題であることは私たちもよくわかっているのですが、学校の中でこれだけの行動を起こしたこと、その呼びかけにたくさんの子どもたちが応えたことにまず驚き、考えさせられました。


もう一つは2組のみなさんが日本の安全保障を巡る問題について岸田首相に手紙を送ったことです。6年生は総合学習「沖縄」、社会科の授業で日本がかつて起こした戦争のこと、その戦争でアジアの人たちを中心にどれだけの犠牲が出たか、とりわけ日本で唯一の地上戦が行われた沖縄での悲惨な状況を学びました。沖縄学習旅行では沖縄戦当時10歳で南部を逃げ惑い、その間に次々と家族を失って一人ぼっちになってしまった体験者のお話を直接聞いています。学徒隊として戦場に放り込まれた方々がたどった戦跡も訪ねました。

私たちの国はこのような歴史を経て、戦後新しい憲法を作りました。そこには、これからは軍隊を持たない、国と国のもめごとは話し合いで解決する、二度と戦争を起こさない、ということをはっきりと書いた九条があります。

この日本国憲法九条を持っているわが国で、自衛隊が作られ、自分の国を守るためには武器を使うこともできる、となり、この1月には、もっと武器をたくさん持つことができるように防衛費を上げるということを閣議決定しました。私たち国民が選んだ国会議員が話し合う国会ではなく、大臣などの閣僚と呼ばれる人たちの話し合いだけで決めてしまったのです。これには国民の多くの人が驚き反対しました。

ウクライナで繰り広げられている戦争は1年以上にも及び、そこで暮らす人たち、子どもたちがどんな想いでいるのかということを考えると、戦争は遠い昔のことではなく、私たちのすぐそこまで近づいてきている気がします。

6年2組の人たちは「防衛費を倍増し、自衛隊を増強すること」を閣議で決めたことに対し、これは憲法九条に違反しているのではないか、この先戦争が起こるのではないか、と心配して、岸田首相に手紙を書いたのです。

クラスで話し合ってまとめた手紙と、個別にも6人の人が手紙を書いています。

KNさんは日米首脳会談で日本側が「防衛費を大幅に値上げする」と表明したことに疑問がある、として、次のように書いています。

「<反撃能力開発のため、使用を想定してミサイルを取得し配備する>と計画を立てていましたが、それに対し私は反対で、矛盾していると思いました。ミサイルをミサイルで返し、<反撃>する事が戦争の発端だと思っていて、戦争に向かう準備をしているように思えます。」

「コスタリカという国では、国の30%を占める軍事費を全て教育費に代えて、さらに近隣国の戦争を全て<対話>で止めさせたと聞き、本当にすごいと思って信じられませんでした。国の規模が小さいからだとしても、コスタリカの大統領の考え方や想像を行動に移す勇気、そして結果として残る実力が素晴らしいと思いました。」

RNさんは「今、自衛隊が攻撃できるようになってしまって、もしかしたら戦争が起きてしまうかもしれないと思い毎日心配です。」と書き、Yさんは「アメリカに<思いやり予算>を払っていて、去年は2110億円も使っています。国民からしたら、教育費や子どものためなどに使って欲しいです。」と訴えました。

この手紙は首相官邸に送り、同時にこのような手紙を書いたことを多くの人に知ってもらいたいと考え、いくつかの新聞社にも送りました。その中の一つ、東京新聞から、もっと話を聞きたいと取材を受け、2月3日の一面で取り上げてもらいました。

「日本の国を守るためには防衛費を上げなければならない」と考えている人から電話がかかってくることもありましたが、その後は新聞記事を読んだ全国の方から励ましの手紙やメールが届いています。沖縄の新聞でも取り上げられたので、沖縄の方からも手紙が届きました。各政党にも送り、その中からていねいなお返事を届けてくれたところもあります。

東京新聞の記事を読んだ和光高校の先生が授業で取り上げ、「自分が首相だったら小学生の質問にどのように答えるだろう」と高校生が考えたと言います。

担任の先生といっしょにみなさんがとり組んだことは、和光の高校生にも問題意識を与えました。

ところが肝心の首相からは何も返事がないので、東京新聞の記者が岸田首相に「返事をしないのですか?」と聞いたら、1か月以上経った3月初め、「一つ一つにお返事を出すことは困難ですが、安全保障政策について国民の皆さんのご理解を得られるように務めていきます」と、東京新聞が「ゼロ回答」と記事に書いたような内容が返ってきました。この返事を受け、もう一度手紙を書いた人たちもいます。

 最初に首相に送った質問の中には、「どうして同性婚を認めないのですか?」というものもありました。RRさんはそのことに触れて「なぜあなた方の古い考えのせいで多くの同性愛者が苦しまなければならないのですか?今は2023年です。早く新しい考えを取り入れてほしいです。」とし、「<たかが小学生の質問なんだからしっかり答えなくていいや>と思わずに、しっかり答えてください。私は小学生である以前に日本の国民なんですから。」と結んでいます。


環境問題、安全保障の問題、6年生のみなさんが今私たちの周りに起こっていることにアンテナを張り、自分はどう考えるかを問いかけ、それをクラスの仲間とともに考えていこうとしていること、より良い方向に向かうための行動を起こしていこう、としていることに、とても大きな感銘を受けました。私はみなさんの何倍も長く生きてきましたが、果たしてどれだけ行動に移すことができたのだろう、と自分自身に問いかけています。

『活憲の時代』を書いた伊藤千尋さんに来ていただきコスタリカのことを話していただいたとき、「自衛隊が守る国ってどういうものですか?」とHくんが質問しました。まさに沖縄で学んだ<軍隊は住民を守らない>ということに繋がることでした。

「首相からまともな返事が来ないんですがどうすればいいですか?」というYさんには「日本はまだ子どもの質問にまともに応えていくという習慣がない。それを君たちが変えていけばいい。」と答えてくれました。

Sくんは「軍を増やしていく日本を変えていくことはできるのですか?」と質問しました。それに対して、ベルリンの壁を崩壊させたのは、たった5人の若者の行動からだったことを紹介し、「できるかどうかではなく、するかどうかです。あなたたちも歴史を変える最初の一人になっていける。」と力強いことばをいただきました。

“歴史を変える”ためには現状をどのようにとらえ、よりよくするためにどうするか考え、行動に移さなければなりません。そのためにはたくさんの学びが必要です。これからも疑問に思うこと、知りたいと思うことはそのままにせず、学び続けてください。

私も今年で和光学園を卒業します。みなさんから学んだことを胸に、私は私にできることをしていこうと、大きな勇気をいただきました。


この3年間、コロナで不自由な日々が続きましたが、ようやく元の生活が戻りつつあります。 

6年前、あどけない顔で入学してきたみなさんが、和光小学校で学び、体験し、立派に成長した姿が、今はとてもまぶしく感じられます。みなさんは6年後には選挙権を持ち大人の仲間入りをします。この先も様々なドラマが待っているでしょうが、これからも今生きている現実の中で事実を見つめ、真実を見つけられる日々であることを願っています。

卒業、おめでとうございます! 



                2023年3月17日


                                                     和光小学校

                                                     校長 北山ひと美


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